言葉にすると恥ずかしい

サトウダイの日記

老舗

 

「いらっしゃい!!」

今日で3人目の客に空元気を振りまきながら、1人の若そうな男性客に声をかけた。

 

「何を注文で?」

 

「じゃあ、担々麺を1つ」

 

「あいよ!」

 

この店は今年で創業40年を迎える老舗の担々麺専門店だ。店前にかけられたのれんに染み付く油や、チリなどの汚れがその歴史を物語っている。

メニューには担々麺のみ。

まさに担々麺専門店というところだ。

味もそこそこだが、この40年間地元の人に愛され続けてなんとかやっとこれた。

その理由は…

 

「兄ちゃん、見かけない顔だね?どこのひと?」

 

「東京です。」

 

「え!大変だねぇ!こんな群馬の田舎に来るなんて!仕事か何かかい?」

 

「はい、仕事で来てるんです。」

 

止まらないマシンガントーク

これがこの店「機関銃撃亭」の大将の得意技である。

この大将のキャラに惚れ、まさにハートを撃ち抜かれた地元の客が大勢いたのだ。かつては。

 

「ほぉ〜そいつはご苦労なこった。せっかく足を運んでもらったんだし、少し多めに麺サービスしてやるよ!」

 

「ありがとうございます。なんか悪いですね。」

 

「いいってことよ。ところで兄ちゃんしごとはなにしてんのさ?」

 

「僕は…雑誌の記者をしています。今度この街の観光ガイドを作るんですよ」

 

「へぇそうかい!わかいのにすごいな!調子はどうだい?」

 

「そうですね…結構厳しいです。わりとここら辺の人たちが閉鎖的みたいであまり話を聞いてくれなくて…」

 

「へえ、そうか…まぁみんなよそ者に警戒してるだけや。兄ちゃん、悪いやつじゃねえからおれからしょうかいしてやるよ!」

 

「本当ですか!? すいません、こんな僕のために色々してもらって。大将の調子はどうですか?」

 

「いいってことよ。うちはひでーぞ、ほんとに。年々客数が減っていってよ昔は昼間は席が空くことがないくらい混んでな、いくつ手があっても足りんと思うことが多かったが、最近は1日に10人くればいい方よ。それもこれも少子高齢化さ。どんどんどんどん田舎には若いもんはいなくなる。若いもんは刺激を求めて、東京やら街に出るからな。うちの田舎にはもう顔のしれたジジババしかいない。

うちの店に顔を出すのもしれてるやつばっかよ。

… すまんな、兄ちゃん!しょっぱい話ばっかしてよ!

おっ、ちょうど出来たぞ!へいおまち!」

 

若い男の目の前には、ラー油の香りがどこか懐かしく古いいたって普通の担々麺が置かれた。

 

若い男はそれを一口放り込み、

 

「懐かしい…」

 

と一言呟いた。

 

すると大将は嬉しそうに答えた。

 

「そうだろうそうだろう!!うちのスープはな40年前から一切レシピを変えてないんだ。なぜなら俺は頑固だからな!ハッハッハ!そこがうちの担々麺のいいところだろう?」

 

「なるほど、だからどこか懐かしいんですね!とても美味しいです!」

 

若い男の口に勢いよく麺が滑り込んで行くところをみて大将は満足そうに頷いていた。

 

「ごちそうさまでした!美味しかったです。」

 

「そうだろう?俺もそういってもらえて嬉しい!」

 

「はい!大将、一つ僕は嘘をついていました。実は僕観光の記事を書いてるんじゃなくて実はラーメンのライターをやってるんです。」

 

この発言から大将の顔が少し曇った。

 

「この店のことは話に聞いてて、なんでも大将がいいひとだと聞いて!なので今度雑誌にとりあげさせて…」

 

「…帰ってくれ。」

 

「えっ?」

 

「いいから、帰ってくれといってるんだ!!」

 

急に店内は張り詰めた空気でいっぱいになった。

 

「おれはな、嫌いなんだよ!ライターってのが!!あいつらせっかく作ったおれの担々麺のことをまともに書かずに俺のどうでもいいトークりょくのことばっか書くんだ!!インターネットやSNSでもそうだ!!勝手にツイッターやらインスタグラムに無断でおれの動画や写真を載せやがる!じじいがPCいじらないと思ってんのか!なぁ!!お代はいらねえからさっさとでてってくれ!!!さぁさぁ!!!」

 

「す、すいませんでした!!!!!!」

 

見事、大将の言葉のマシンガンに蜂の巣にされたライターは逃げるかのように店を去っていった。

 

店内に、つけっぱなしになっていたTVにうつる笑福亭鶴瓶の笑い声だけが響いていた。

 

(担々麺、PC、笑福亭鶴瓶)